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NATIONAL INSTITUTE OF GENETICS
Mammalian Development Laboratory

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RESEARCH

研究内容

  1. 発生工学的手法の改革と開発
  2. 体節形成に関する研究
  3. 生殖細胞の発生機構
  4. 心臓の形成機構

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4.心臓の形成機構

研究の目的:

心臓は血液の体循環のポンプの役目を果たす重要な器官であり、心臓の機能の破綻は生命の危機をもたらす。新生児の100〜200人に1人は心臓に何らかの障害を持って生まれ、また心臓疾患が常に死亡原因の上位に位置するなど、心疾患の原因を特定し予防や治療に役立てることが期待されている。そのためには、心臓がどのように形作られ、形態形成過程における異常がどのような疾患に結びつくのかを明らかにする必要がある。私たちは、心臓が形成される仕組みを明らかにすることを目的として研究を行っている。

背景:

  1. 心臓の形成過程:
    胚発生の過程で、組織構築の基盤をなす3胚葉の形成は原腸陥入と呼ばれる細胞のダイナミックな形態形成運動により開始される。その結果外胚葉と内胚葉の間に形成される中胚葉が将来の心臓、筋肉、骨、腎臓等をつくる細胞を生み出す。その中でも最も初期に胚へと陥入する側板中胚葉の一部に、血管内皮細胞や心臓の前駆細胞が含まれている。前駆細胞の運命が決定されると、さらに心房-房室管—心室—流出路へと区画化され、中隔と弁によって隔てられた4つの部屋を持つ成熟した心臓の形態が完成する(図1)。


    図1:心臓の発生過程
    胚の前方に三日月型の心原基(cardiac crescent)を形成する。心原基から心内皮層(endocardium)と心筋層(myocardium)の二層からなる1本の原始心筒(primitive heart tube)が形成される。この心筒は前後軸に沿って区画化され、ルーピングを伴いながら分化し、中隔と弁によって隔てられた4つの部屋を持つ複雑な心臓が形成される。

  2. 心臓の前駆細胞に発現するMesp1遺伝子:
    我々は、転写因子 Mesp1を単離し、その発現が極めて早い時期の中胚葉の一部に一時的に発現することを観察した。そこで、 Mesp1 遺伝子座に Cre-recombinase を導入したマウス(Mesp1 ノックインマウス)を作成し、このマウスをレポーターマウスと交配することにより、Mesp1 を発現した細胞の運命を追跡した(図2, 3)。すると、主に心臓と血管に寄与することが明らかとなった。さらに、キメラ実験によりMesp1/2 重複KO胚由来の細胞が心臓に寄与しないことを見いだし、心臓の形成に重要な決定因子であることを明らかにした。

    図2:細胞系譜解析の方法
    Cre-recombinaseが働くと、loxp配列に挟まれたCAT遺伝子が脱落し、赤色蛍光タンパク質をコードするmRFP遺伝子がCAGプロモーター直下に再配置され、継続して発現するようになる。このように、Mesp1遺伝子が発現した細胞を標識することが可能となる。
    図3:Mesp1遺伝子の細胞系譜解析
    Mesp1遺伝子座にCre-recombinaseを挿入したマウスとCAG-CAT-mRFPマウスを掛け合わせると、主に心臓と血管が赤色蛍光標識される。

  3. 心房・心室特異的に発現するHesr遺伝子:
    我々が単離した転写因子Hesr1とHesr2は、心房および心室の心筋特異的に発現する。心臓全体に強制発現させると、将来房室弁が形成される領域である房室管の形成が不全となり、特異的な遺伝子発現が抑制される。このことから、Hesr1やHesr2が心房-房室管-心室という心臓における区画化に重要な働きをしていることが明らかとなった。また Hesr2 は、心臓弁が形成される房室管および流出路の心内皮に発現する。単独ノックアウトマウスにおいて、房室弁形成不全による心臓の拡大を伴ってそのほとんどが生後10日目までに死亡することを観察し、弁形成への関与も明らかにしてきた。

    図4:心房・心室特異的に発現するHesr遺伝子
    Hesr1は心房に(A)Hesr2は心室に(B)発現するが、房室管には発現しない(C)。これに対して、Bmp2は房室管特異的な発現が認められる(F)。図2で示された方法で、Hesr1(D)およびHesr2 (E)を心臓全体に発現させると、房室管領域(Bar in G)が縮小(Bar in H) もしくは欠失(arrowhead in I)する。Hesrは心房-房室管-心室の境界形成に重要な役割を果たすことが示された。

研究課題1:心筋分化機構の研究<

Mesp1 をマーカーとして使うことにより、少なくとも最初の中胚葉集団から、血管および心臓前駆細胞を単離することが可能になった。しかしながら、Mesp1を発現した細胞は、血管や心臓だけでなく、他の中胚葉由来の組織にも分化することが明らかとなっている。この細胞集団をスタートにして、どのような因子が将来の血管あるいは心臓、特に心内膜や心筋へと分化するのか、その鍵となる因子(遺伝子)を同定していくことにより、ES 細胞の分化を巧みに制御し、再生治療に有用な細胞集団を得ることを目指す。

研究課題2:心臓弁形成および維持機構の研究

Hesr2単独ノックアウトマウスは、成体まで生き残る群も存在している。10日目までに死亡する群と同様に心臓弁に何らかの異常があるかどうか調べたところ、生まれた時点では心臓の形態に異常は認められないが、月齢を追って半月弁に異常が現れることが明らかとなってきた。我々は、その病態発症のメカニズムを明らかにしていくことで、成体心疾患のモデルマウスとして治療と予防に役立てたいと考えている。





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