発   生   工   学   研   究   室

NATIONAL INSTITUTE OF GENETICS
Mammalian Development Laboratory

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RESEARCH

研究内容

  1. 発生工学的手法の改革と開発
  2. 体節形成に関する研究
  3. 生殖細胞の発生機構
  4. 心臓の形成機構

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3.生殖細胞の発生機構

研究の目的と意義:

生殖細胞は次世代に遺伝情報を伝えることが出来る唯一の細胞で、体細胞とは全く異なった発生・分化・生存戦略をもっている。しかしその細胞の独自性に関する分子レベルの理解にはまだ至っていない。現在、ES細胞あるいはiPS細胞を用いて生殖細胞を作ろうとする試みがなされているが、正常発生における生殖細胞の発生・分化機構を明らかにすることが優先されるべきと考える。我々は、生殖細胞を既定する分子のなかでも種をこえて、生殖細胞の生存に必須で重要な役割を果たす因子の一つであるNanosタンパク質の機能解析を行っている。また、生涯を通して生殖細胞を生み出す精子形成過程における幹細胞システムの確立・維持に関する研究も行っている。

研究背景:マウスのNanos 遺伝子群

マウスは3つのNanos 遺伝子をもつ。我々は最初に、Nanos1を単離した。しかし、その発現は予想と大きく異なり、胎生期から生体にいたるまで、脳の一部、特に、海馬を構成する神経細胞にみられた。生体の精巣でも分化した精子細胞に発現があったが、発生過程における発現は認められなかった。また遺伝子ノックアウトマウスも全く異常を示していない。次にNanos2 とNanos3を単離し、発現解析とノックアウトマウスの作成を行った。その結果は全く期待を裏切らなかった。両方の遺伝子も生殖細胞に特異的に発現しており、その遺伝子欠損の表現系もその発現を反映していた (図1)。

図1. Nanos2 及びNanos3ノックアウトマウスの表現型

研究課題1:Nanos3の発現と機能解析

Nanos3の発現は、胎生7日目の尿膜基部に現れる始原生殖細胞に限局している。発現はその後消失するが、オスでは生後の未分化精原細胞で再開する。Nanos3ノックアウトマウスの始原生殖細胞は胎生期でアポトーシスによって死滅し、成体は雌雄ともに完全に生殖細胞を欠損し不妊である(図1)。我々は、アポトーシスを抑制することによって、生殖細胞でなく体細胞に分化する可能性はないかと考え、Nanos3とBaxのダブルノックアウトマウスを作製して解析した。残念ながらBaxは唯一のアポトーシス誘導因子ではないため、アポトーシスを完全に抑制することはできなかったが、ダブルノックアウトした細胞が体細胞に分化するという証拠は得られなかった。生き残った細胞は生殖細胞として分化する能力を有しているようである。これは我々には少し意外であった。生後に発現するNanos3の機能や詳細な作用機構はまだわかっていない。

研究課題2: 生殖細胞の性分化におけるNanos2の機能とその作用機構解析

Nanos2の発現は非常にユニークで、胎生期の精巣に入った雄性生殖細胞特異的に発現し雌性生殖細胞では全く発現しない。ノックアウトマウスの表現型も発現と一致しており、雄の生殖細胞が特異的にアポトーシスにより死滅し、雄のみ不妊となり、雌には全く異常はない(図1)。

したがってNanos2もNanos3同様に生殖細胞の維持に必要なタンパク質であるが、詳細な解析によってNanos2は生殖細胞の性分化を制御している重要なタンパク質であることがわかった。生殖細胞の性分化は、始原生殖細胞が生殖巣に入ってから体細胞による誘導によって引き起こされる。メスはすぐに減数分裂を開始するが、オスは細胞分裂を停止して生後に減数分裂を行う(図2)。しかし、Nanos2を欠損したオスの生殖細胞は細胞周期を停止せずに減数分裂を開始する上に、メス化する傾向を持つ。すなわち、Nanos2は減数分裂を抑制し雄性遺伝子プログラムの推進に必要な分子といえる。
ではNanos2はどのような機構で働いているのであろうか?この点が一番重要であるが、まだ解答は得られていない。しかしいくつか興味深い事実が判明しつつある。最近我々は、Nanos2がRNAのpolyA鎖の分解に関与するdeadenylation 複合体と結合しており、P-bodyと呼ばれるRNAの分解部位に局在することを明らかにした。Nanos2はRNAの分解を促すことによって、標的遺伝子の翻訳制御をしているのかもしれない。またNanos2ノックアウトマウスの生殖細胞の遺伝子プロファイルを解析した結果、多くの遺伝子の発現に増減の変化が見られた。今後Nanos2の直接の標的遺伝子を同定する実験が必要である。

図2. 生殖細胞の発生と性分化過程

研究課題3:精子幹細胞システムの維持機構

Nanos2は、胎生期の雄性生殖細胞の生存や性分化に重要な役割を果たす。しかしその発現は生後の精巣の非常に限られた細胞で維持されていることから、生後における機能が示唆されていた。そこで条件的に生後でのみNanos2をノックアウトできるマウスを作成し解析した結果、Nanos2欠損マウスでは、精原細胞がすみやかに失われ、精子形成が停止した(図3)。

次に我々はNanos2を発現する細胞が精子幹細胞である可能性に挑戦した。哺乳類の精巣に幹細胞が存在することは古くから知られていたが、多数存在する細胞の中で、どの細胞が幹細胞としてふるまうのかを正確に同定することは困難だった。そこで、NANOS2を発現する細胞を遺伝的にマークしその細胞系譜を解析した。その結果、Nanos2発現細胞が幹細胞として生涯にわたって精子形成細胞を供給しうることを証明した。さらに興味深いことに、Nanos2を本来発現しない細胞で、強制的に発現させると、精巣内の全ての細胞が精原幹細胞とよく似た性質をしめすようになる。このようにNanos2は、精原幹細胞を未分化な状態に維持する働きを持つことがわかった。

図3. Nanos2の生後の機能

研究課題4:精子サイクルの調節機構

マウスにおいて精子形成は、35日を周期に分化制御されており、特徴的な分化段階を示す精細管(ステージI-XIIに分類できる)は微細環境による周期的な支配を受けていると考えられている。特に体細胞であるセルトリ細胞による制御の重要性は示唆されているが、あまり研究は進んでいない。我々はセルトリ細胞における遺伝子発現変化と精子サイクルの関係を解析している。その結果、多くの遺伝子発現が精細管のステージ特異的に変動しており、レチノイン酸による正と負の制御を受けていることが明らかになった。現在、レチノイン酸による制御機構の詳細を解析している。また周期性の確立にレチノイン酸以外のシグナルが関与する可能性にも興味を持って研究している。





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