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NATIONAL INSTITUTE OF GENETICS
Mammalian Development Laboratory

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RESEARCH

研究内容

  1. 発生工学的手法の改革と開発
  2. 体節形成に関する研究
  3. 生殖細胞の発生機構
  4. 心臓の形成機構

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2.体節形成に関する研究

研究の目的:

地球上の多くの動物は節構造をもっている。このような構造はどのようにして作られるのであろうか?その謎を解くカギは発生過程にある。私たちは、節構造形成の仕組みを明らかにすることを目的にして研究を行っている。


背景

  1. 体節って大切
    よく冗談のように私たちが使う言葉であるが事実である。体節というのはまさしくからだの節という意味で発生過程にのみ見られる構造である。私たちの体は実は最初は頭と尾の部分が先に作られる。そしてその間を埋めるように体の大部分は、あとからつけ加わるようにして形成されていくのである。すなわち、尻尾の部分で細胞が作られ、それがからだの首から胸、腹、腰といった形で順次に作られていく(図1)。

    図1.マウスの体節形成過程
    この時、細胞の塊が一定の大きさで前方からくびれきれていく。これがマウスの場合には2時間ごとに起こる。すなわち、2時間ごとに体節が一個ずつ前から後ろに向かって作られていくのである。そしてこのひとつの体節がひとつの脊椎骨を作ると同時に筋肉や真皮にもなる。まさしく体を作る基にもなっているのだ。
    この構造は本当に大切でこの構造をもとにして血管や神経節が作られていく。したがって体節の異常は、病気の原因にもなる。特に脊椎骨の異常は生命を脅かす重篤な症状を引き起こす場合が多い。だからこそこの体節の形成過程は非常に巧妙で厳格な制御機構をもっている。
  2. 体節時計と時計を動かす仕組み
    時間毎に一つずつ作られていく体節、いったい誰がどうやってその時間を測っているのだろうか?このメカニズムを説明するモデルとして”Clock and wavefront”モデルが1970年に提唱された。このモデルではまず、時間をはかる時計を想定する。この時計が2時間おきにあるスイッチ(clockによる制御)を入れるとする。そしてそのスイッチの入る場所が尾の一番後端から一定の距離(wavefront)のところに決まると仮定した(図2)。
    現在その機構は分子レベルで説明可能になっている。Notchシグナルが時計のスイッチを入れる。




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    図3:ムービー
    ではwavefrontはどのようにして作られるのであろうか?実はFGFシグナルが尾の一番後ろで最も強く、前のほうに行くに従って活性が低くなることが分かってきた。そしてちょうどFGFシグナルがなくなるところでNotchシグナルがオンになると切れ目がはいる。この時ちょうど体節が切れる場所で発現してくる遺伝子がMesp2転写因子である。このタンパク質がなくなると体節の分節化が起こらない。このタンパク質の発現を可視化するために、我々はYFPと融合したMesp2-venus遺伝子を作り、この遺伝子を本来のMesp遺伝子の代わりにノックインしたマウスを作製した。このマウス胚を観察してみると、生きたままの状態でタンパク質の発現を顕微鏡で観察することができる。そして、ちょうど体節ができる場所で蛍光タンパク質がオンオフを繰り返していることが明らかになった(図3:ムービー)。
    さて、実際に時計はどこでどのように働いているのであろうか?
    実は体節を作る細胞すべてのなかで時計が動いている。
    これはNotchシグナルのオンオフやその下流遺伝子Hes7 とL-fngのオンオフで可視化することができる。Hes7は転写抑制因子で、ひとたびタンパク質に翻訳されると今度は自分自身とL-fngの転写をオフにする。L-fngはNotch受容体の細胞外領域に糖鎖をつける糖鎖修飾酵素で、この糖鎖修飾がNotchシグナルを抑制する。したがって、ひとつの細胞のなかでこれらの因子が2時間周期でオンオフを繰り返しているのである(図4)。
    しかしこれらが個々の細胞でバラバラにおこってしまったら、体節という構造はできない。実は細胞は隣の細胞と時計を合わせるための仕組みをもっている。我々は、この細胞同士の同調化機構(研究課題1)、Mesp2の機能を介した体節の分節化機構(研究課題2及び3)に焦点を絞った研究をしている。

研究課題1:マウスの体節形成における時計同調化機構

体節形成における時計の同調化機構はゼブラフィッシュでは、よく研究されているが、マウス体節形成におけるClockの同調化機構は明らかになっていない。我々はマウスの同調機構を明らかにするために野生型細胞と遺伝子ノックアウト細胞を混合して発生させる、モザイク胚解析を行っている。現在、実験とコンピューターを用いたシミュレーションにより、マウスの体節形成過程における時計の同調化機構の詳細を明らかにしようとしている。

研究課題2:マウスの体節形成における分節境界の形成機構

さて、分節の境界はどのようにして決まり、体節はどのようにしてくびれきれるのであろうか?
この鍵はMesp2の発現を制御する因子にある。

Mesp2は体節時計であるNotch シグナルに応答して発現がオンになる。しかし、Mesp2の転写を開始させるにはTbx6という転写因子が必要である。このタンパク質の発現は尾部の後ろから前方に広がりある部分で、急に発現がなくなる。そしてその前方の発現境界がMesp2の発現の前方境界と一致する。そしてこの境界が次の体節の前方境界になる。すなわちMesp2の発現が次の分節の位置を決める。さらに興味深いことに、一度Mesp2タンパク質が合成されると、その細胞では転写因子Tbx6の分解がおこることが明らかになった。すなわち、Mesp2の発現が次のTbx6発現の前方境界を決めるのである。そして、その部分にNotchシグナルの波がくると次のMesp2の発現が開始され、新たな分節境界がきまる(図5)。
これが繰り返されることにより2時毎に体節が形成されるのである。しかしMesp2によるTbx6抑制の分子機構はまだ不明である。


図5.Mesp2による分節境界決定機構

研究課題3:体節の前後極性確立機構

体節は将来脊椎骨を作る源である。すなわち体節細胞が分化して骨を作るが、すべての細胞が同じ骨に分化するわけではない。実は体節には位置情報があり、体節の前方部分と後方部分では異なった性質の細胞によって構成されることが分かっている。私たちはこれを体節内の前後極性と呼んでいる(図6)。
したがって体節の前後極性が異常になると骨の形成も異常になる。この前後極性の形成にもMesp2とNotch シグナルが重要な機能を果たす。

実は、Mesp2が体節の前方部を作るために必要でその機能はNotchシグナルの抑制であることがわかった。実際、我々は詳細な観察により、Mesp2の遺伝子発現が最終的に体節の前方部分で強くなることを明らかにしている。しかしMesp2がどのような機構でNotch シグナルを抑制するのかその分子機構の解明は今始まったばかりである。

今後の展開:

転写因子Mesp2を介した体節形成の分節化機構の研究は、国際的にも高い評価をうけており、我々のマウスの遺伝学を用いた研究は非常に高い水準にある。今後は、これまで遺伝学的解析によって示してきた現象に関してその分子機構を明らかにする必要がある。Mesp2はどのようなタンパク質と相互作用して機能するのか?その標的遺伝子はいくつあってそれぞれがどのように制御されているのか?未解決な問題に今後新しい技術を導入して展開させていく必要がある。

 




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